戦国時代の陣中食を再現する 戦場で命をつないだ五品
兵糧丸、鯉の陣中漬け、芋がら縄、陣屋味噌、干し飯。
戦国武士が戦場で食べた陣中食を、当時のつくり方で再現した記録。

この記事でわかること
- 戦国時代の陣中食とは、武士が戦場で食べた保存食・携行食
- 兵糧丸は五種の漢方+玄米・もち米・氷砂糖。すり鉢で粉にするのに約二時間半
- 鯉の陣中漬けは醤油・みりんと味噌で合計二十日かけて漬け込む
- 芋がら縄は食料でありながら、荷を縛る縄としても使えた
- 陣屋味噌は武田信玄が考案したとされ、二十日で出来上がる
戦国時代の陣中食とは
陣中食とは、戦国時代の武士が戦場で食べていた保存食・携行食のことです。 群雄割拠の時代、極限状態の戦場で、武士たちはどのような食事で命をつないでいたのでしょうか。 戦国時代の食事のなかでも、陣中食はとりわけ切実な工夫のかたまりでした。
冷蔵庫も、缶詰も、真空パックもありません。 限られた食材と保存技術だけで、何日も、ときに何十日も戦い続ける体を支えなければならない。 その答えが陣中食でした。今回は代表的な五品を、当時のつくり方どおりに再現しています。
一品目・兵糧丸

戦国武士の携帯食として最も有名なのが「兵糧丸」。戦場での非常食であり栄養食でもあった、まさに武士の命綱です。
使う漢方は、次の五種類です。
- 桂皮(けいひ)
- シナモンの樹皮を乾燥させたもの。体を温める温熱作用があるとされ、発汗・発散、健胃の生薬として使われます。
- ヨクイニン
- ハトムギの種皮を取り除いた種子。いぼの治療や肌の代謝を上げるものとして知られ、免疫機能向上、消炎作用があります。
- 山薬(さんやく)
- 山芋や長芋の根茎の皮を取り、乾燥させたもの。滋養強壮、免疫活性、抗炎症作用。
- 連肉(れんにく)
- 蓮の実。滋養強壮、健胃、利尿、鎮静作用。
- 朝鮮人参
- 体力向上、集中力および記憶力の向上、免疫機能の活性化。
こうして並べてみると、現代の栄養ドリンクでも見かける顔ぶれです。
すり鉢と、二時間半

これらをすべて粉末状にします。漢方だけで約一時間半。もち米と玄米、氷砂糖まで含めると、 すべての材料を細かくするのに約二時間半かかりました。当時は薬研を使っていたのでしょうが、それにしても気の遠くなる作業です。
粉末にした材料をすべて混ぜ、水を加えて鉄鍋へ。中弱火でゆっくりとかき混ぜ続けます。
火を通すとシナモンのいい匂いが立ちのぼり、まるで菓子を作っているようです。
とろみが出て粘度が高くなったら火を止め、余熱で固まらないうちに団子状にしていく。 これが熱く、そして急がねばならず、非常に難しい。

なお兵糧丸の作り方や材料は、地域や陣営ごとに異なっていたようです。ここで再現したのはその一例にあたります。
二品目・鯉の陣中漬け

鯉は当時の貴重なタンパク源で、特に信州などの内陸部では重要な食材でした。 あの軍神・武田信玄も愛したといわれ、『甲陽軍鑑』に記されています。

鱗を取り、頭を落とし、苦玉といわれる胆のうを指で探ってゆっくりと取り出す。 ここから輪切りにするのですが、これまで扱ってきた魚と違って骨が固く、かなり力を入れないと切れません。
輪切りにしたら桶へ移し、醤油とみりんで二日から三日ほど漬け込みます。 さらに別の桶の底に味噌を敷き詰め、漬けた切り身を並べ、その上からまた味噌を敷き詰めて数日寝かせる。
合計二十日。
取り出して味噌をぬぐい、身をほぐすと、ホロっと崩れるほど柔らかくなっていました。
これを竹の皮に包めば完成です。
三品目・芋がら縄

芋の茎を乾燥させて作る保存食です。つくり方はいたって簡単で、ずいきを三本取り、三つ編みにして紐状にしていくだけ。 ずいきは食物繊維が豊富で保存も利き、軽くて場所を取らないため、携帯食として重宝されました。
次に濃いめの味噌汁を作り、この中に縄を入れてじっくりと煮詰めます。こうすることで縄の隙間に味噌がしみていく。 いい具合にしみたら鍋から取り出し、天日干しに。

ある時は腰に巻き付けて持ち運び、ある時は荷物を縛る縄として使う。万能的な使いものでした。 戦国の武士たちは、こうして夏に収穫した芋がらを、冬の合戦に備えて保存していたのでしょう。
四品目・陣屋味噌

味噌は戦国時代の重要な調味料で、乾燥させた味噌玉を持ち運んでいました。 ですが当時は、味噌ができるまでの時間、さらにそれを乾燥させる時間と、途方もない時間を要するのが悩みの種でした。
そんな中で武田信玄が考案したといわれるのが、この「陣屋味噌」(陣中味噌とも呼ばれます)。 作り始めてから二十日で出来上がる味噌です。
大豆を水で一晩かけて戻し、鉄鍋で五時間ほどゆっくりと煮る。 粒が耳たぶほどの柔らかさになったら米麹と砂糖を入れ、大豆をつぶしながら混ぜていく。 あとは団子状にして桶に入れ、二十日寝かせるだけです。
五品目・干し飯(乾飯)

干し飯は「乾飯(ほしいい)」とも書きます。米を炊いて干すという、単純ながら効果的な保存法です。
水分が多いと乾燥に時間がかかるため、いつもより少ない水で固めに炊く。 炊きあがった米を一度水で洗ってぬめりを取り、ざるに上げて薄く平らに伸ばす。 あとは天日でじっくりと乾燥させます。
乾飯は奈良時代から続く日本古来の保存食で、戦国時代には武士の基本的な携帯食でした。 現代のインスタント食品の原型ともいえます。
再現した陣中食を食べてみる

実際に戦場で食べられていたように、いただいてみます。 鍋に陣屋味噌を入れて味噌汁を作り、そこに干し飯と鯉を入れる。 あわせて梅干しも。梅干しは当時、傷口の消毒や、食中毒・伝染病の予防にもなる万能なものでした。
質素ながら、しっかりとした味
鯉は思っていたほど臭みはないものの、独特の風味があり、苦手な人はいるでしょう。
現代の味噌汁に比べると、かなり塩辛い。 ただ、当時の武士たちの運動量で考えれば、これくらい必要だったはずです。
鯉の身は柔らかく、干し飯も雑炊にしたことでもちもちとして食べ応えは抜群。 これなら戦場の厳しい状況でも、十分に栄養を補給できそうです。
兵糧丸は、飴に近い
意外だったのが兵糧丸でした。 シナモンの風味が強く、味も甘く飴に近い。 あれだけ体がバキバキになりそうな漢方が入っているなんて、言われなければ分からないでしょう。
芋がら縄は切ってそのまま鍋で煮れば、しみこんだ味噌が溶け出して即席の味噌汁ができあがります。 こちらもしょっぱいものの、しっかりと味噌汁になっている。
芋がら自体も甘味があり、食感はかなり柔らかい。 まるでお麩を食べているようでした。

本編動画
参照した史料
- 『甲陽軍鑑』巻第一(写・江戸中期) ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 武田信玄肖像画 ―― 長野市立博物館蔵
- 『雑兵物語』二巻(弘化3年/1846)―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 一猛斎芳虎「信州川中嶋大合戦」(万屋重兵衛)―― 国立国会図書館デジタルコレクション



