江戸時代の寿司を再現する 200年前の寿司はどんな味か
江戸時代の寿司を史料どおりに再現し、
同じ品を現代の寿司と並べて食べ比べた記録。

この記事でわかること
- 江戸時代の寿司は現代より一貫がかなり大きい
- ネタは生ではなく、煮る・漬ける・締めるのが基本だった
- シャリには赤みがかった酢を使い、味は現代より力強い
- かんぴょうの細巻は、200年経ってもほとんど味が変わっていなかった
- まぐろだけは、鮮度の点で現代に軍配が上がる
江戸時代の寿司とは
江戸時代の寿司は、現代の握りより一貫がかなり大きく、ネタは生ではなく 煮る・漬ける・締めるのが基本でした。冷蔵設備がなかったためです。 シャリも白酢ではなく赤みがかった酢を使い、味は現代よりも力強いものでした。
江戸時代の寿司は、江戸の町で生まれて今日まで続いている数少ない食べものです。 では、生まれたころの寿司は、いま私たちが食べているものとどれくらい違うのでしょうか。 味は変わってしまったのか。それとも、案外そのままなのか。
確かめるには、昔の寿司を作って食べてみるほかありません。 当時の史料をもとに江戸時代の寿司を再現し、同じネタの現代の寿司を隣に並べて、一貫ずつ食べ比べました。
再現した江戸時代の寿司

用意したのは、あなご、白魚、こはだ、まぐろのヅケ、かんぴょうの細巻、玉子巻き、厚焼き玉子。 シャリには赤酢(酒粕を醸造した酢)を使いました。まずはネタごとに、仕込みの様子から。
あなご

あなごは切らずに長いまま甘煮にします。 そのため一貫が非常に大きく、食べるのがひと苦労になります。 人によっては、これ一貫で腹がふくれてしまうほどです。
白魚

白魚は湯引きしてから使います。ほのかな苦味があり、これにかんぴょうの甘辛さが合わさります。 ただ、食べるときに白魚がぽろぽろ落ちそうで、なんとも落ち着きません。 ちなみに当時の値段は8文でした。
こはだ

鱗を取り、頭を落としてワタを抜く。小さな魚ですが、手数はかかります。 仕上がりには光り物特有の香りが立ちました。
まぐろのヅケ

まぐろは醤油に漬け込みます。冷蔵設備のない時代に、生の魚をどう食べるかという工夫がそのまま形になったネタです。
細巻・玉子


食べ比べてわかったこと
大きさが、まるで違う
まず驚くのが一貫の大きさです。 長いまま甘煮にしたあなごは柔らかく甘辛く、ふっくらしたネタとやや硬めのシャリがちょうどいい塩梅でした。
ただ、とにかく大きい。 現代のあなごは持ちやすく食べやすく、味はむしろ現代のほうが濃く感じます。シャリもふわっとしている。
同じネタでも、食べものとしての設計がまるで違います。
200年、変わらなかった味がある
いっぽうで、ほとんど変わらないものもありました。かんぴょうの細巻です。
甘辛さがあって、これだけでおかずになりそうなほど。細巻という名前のわりに食べ応えは抜群です。 現代のかんぴょう巻きと比べても、味は大きく変わっていませんでした。
まぐろだけは、現代に軍配
醤油に漬けたまぐろは、ねっとりとした質感で濃い味わい。 漬けの濃さと赤酢のシャリが実によく合います。これはこれで完成されている。
しかし現代のまぐろは、新鮮だからこそ口の中でとろける。 当時では決して食べられなかった、現代ならではのうまさです。
江戸の人がこれを食べたら、それこそひっくり返るでしょう。
その他のネタ
- 白魚 ―― 湯引きの苦味とかんぴょうの甘辛さが絶妙。現代でいう軍艦の位置づけ
- こはだ ―― 光り物特有の香り。いちばん酒に合いそうな一貫
- 玉子巻き ―― 玉子の甘みとシャリの酸味のバランスがよく、海苔とかんぴょうで食感に空きがない
- 厚焼き玉子 ―― 赤酢の独特なシャリとの相性が抜群。ただし食べ応えがすごく、顎が疲れる
本編動画
参照した史料
再現にあたっては、江戸の風俗や魚、寿司を描いた次の資料を参照しました。
- 喜田川守貞『守貞謾稿』後集巻一ほか ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 歌川国芳「縞揃女弁慶」〔安宅の松〕 ―― 東京都立中央図書館蔵
- 『絵本江戸爵』 ―― 東京都立中央図書館蔵
- 豊国『寿し好』(文久三年) ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 豊国『二十四好今様美人 寿し好』(文久3年/1863) ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 葛飾北斎 画『北斎漫画』二編 ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 一立斎広重「魚尽」〔鯵・車海老・蓼〕・〔黒鯛・小鯛・山椒〕 ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 毛利梅園 撰輯『梅園魚品図正』巻一(天保6年/1835序)―― まぐろ・このしろ ―― 国立国会図書館デジタルコレクション
- 国安「日本橋魚市繁栄図」 ―― 国立国会図書館デジタルコレクション



