江戸時代の朝食を再現する 江戸時代の庶民は朝、何を食べていたか
庶民の朝食を一週間分、史料どおりに再現。
七日間の献立と材料を、つくって食べた記録です。

この記事でわかること
- 江戸時代の庶民の朝食は、ほとんどが「一汁一菜」という簡素な構成だった
- 変化は漬物の種類と味噌汁の具でつけていた(大根・小松菜・ぬか漬け・百味火薬漬・たくあんなど)
- 納豆汁・八杯豆腐汁など、現代では見かけない汁物が日常的に食べられていた
- 五日目のように、めざしと梅干しが付く「少し贅沢な日」もあった
- 限られた食材で栄養を確保する保存食の技術が、献立の中心にあった
江戸時代の食事は豊かだったのか
「豊かな食文化」と言われる江戸時代。 しかしその実態は、庶民にとって決して豊かなものではありませんでした。
彼らの生活は、年貢という重圧の下、自然の恵みと厳しさの中で営まれていたものです。 度重なる飢饉が、暮らしをさらに困難なものにしました。
そのような時代のなかで、人々は日々どのように糧を得ていたのか。 江戸時代の庶民の朝食を一週間分、当時の史料どおりに再現しました。
一日目・納豆汁と大根の早漬


汁物は納豆汁。『料理物語』に記された料理で、納豆は良質なタンパク源として江戸の庶民の食生活を支えていました。
すり鉢に納豆と出汁を加え、よく混ぜ合わせて粘りを出します。 出汁は当時、鰹節と昆布を組み合わせたものや煮干しが多く用いられました。今回は煮干しの出汁です。 豆腐と小松菜に火が通ったら、最後にすりおろした納豆を加えて完成。


- 納豆汁(2人前)
- 納豆 1パック/江戸甘みそ 大さじ4/出汁 適量(煮干し)/豆腐 1丁/小松菜 1束
- 大根早漬香の物
- 大根 10cm/塩 30g/酒 小さじ1 ―― 『諸国名産大根料理秘伝抄』を参考に。熱湯を一度かけ、少量の酒を加えることで、短時間でも味が染み込む
早漬なので大根のみずみずしさが残りつつ、漬物特有の食感が楽しめます。 程よい塩味がご飯との相性抜群で、箸が止まりません。 納豆汁は味噌の風味と納豆の香りが絶妙に調和し、腹持ちもよく、朝の活力源として理にかなった一品でした。
二日目・菜漬とわかめの味噌汁

漬物は小松菜などの葉物を使った菜漬。『四季漬物塩嘉言』に記された方法です。 塩加減に明確な決まりはなく、経験に基づいて適切な量を見極めていました。葉の色を保つため、押しが強すぎないように漬け込みます。


わかめは保存がきく貴重な海産物として、内陸部でも重宝されました。 鍋に直接入れず、わかめを入れた椀に出来立ての味噌汁を注ぐことで、食感が保たれます。
- わかめの味噌汁
- 豆腐 1丁/わかめ 適量/出汁 500ml/みそ 大さじ2
- 菜漬
- 小松菜などの葉物と塩 ―― 『四季漬物塩嘉言』を参考に。塩加減に明確な決まりはなく、経験に基づいて見極めていた
菜漬は小松菜特有の苦みが漬けることで和らぎ、とても食べやすくなっていました。 わかめ汁は現代でも親しまれているものですが、現代よりもだしの風味がより強く感じられます。
三日目・ぬか漬けと八杯豆腐汁

漬物は茄子ときゅうりのぬか漬け。当時、季節によって異なる野菜を漬けることで、一年を通して多様な味わいを楽しめるものになっていました。 ぬか床の管理は一日にしてならず、当時も今も毎日かき混ぜるなどの手入れが必要で、まさに生き物のように扱われました。
汁物は『豆腐百珍』に記された八杯豆腐汁。 当時江戸で納豆汁に次ぐ人気のある汁もので、名前の由来は水またはだしを6杯に対して酒1杯、醤油1杯ということから。 おいしさのあまり八杯もお代わりするという説もあるようです。



豆腐をうどん状に切り、お湯につけておきます。当時は木綿豆腐がほとんどで今ほど柔らかくはなく、こうして柔らかくすることが多かったようです。 葛を入れてとろみが出るまで温め、最後に大根おろしを加えて完成。
- 八杯豆腐汁
- 豆腐 1丁/水 300ml/葛 大さじ1/大根おろし 適量
とろみのある汁は最後まで温かい状態を保ち、豆腐が麺状になっていることで食べ応えもあります。 大根おろしが加わることで清涼感が感じられ、甘じょっぱい味わいとあいまってご飯がどんどん進みました。
四日目・百味火薬漬と大根汁

百味火薬漬は、きゅうりや茄子に加え、山椒や唐辛子など様々な香味野菜を塩と合わせて漬けるもの。 特に夏場などには清涼感がある漬物として人気がありました(『四季漬物塩嘉言』)。


- 百味火薬漬
- きゅうり 1本/茄子 1本/茗荷 3個/生姜 1/3袋/青じそ(大葉)5枚/青柚子 小1個/山椒 小さじ1/蓼 小さじ1/唐辛子 1本/塩 小さじ1.5
- 大根の味噌汁
- 大根 1/4本/大根菜 適量/出汁 500ml/みそ 大さじ2 ―― 大根は保存がきく野菜として、冬場の貴重な栄養源だった

火薬漬は茗荷と生姜の香りが特徴的で、最初は爽やかな風味が口に広がります。 その後から山椒や唐辛子のピリッとした辛さとゆずの香りが追いかけてきて、名前の通り多彩な味わいが楽しめました。
味噌汁もしっかりと煮込んだ大根から甘みが溶け出し、優しい味わいの汁物に。 火薬漬の刺激的な味を中和し、ほっと一息つける温かな味で、大根の葉も無駄なく使われています。
五日目・梅干しとしじみ汁、めざし

江戸時代、梅干しは重要な保存食であり、防腐・殺菌効果も期待されていました。 よく熟した梅の実を選び、塩漬けにして天日干しにする。長期保存には3日間干しては梅酢に漬けることを繰り返すという念の入れようです。
汁物は少し贅沢にしじみの味噌汁。しじみは栄養価が高く、疲労回復に効果があるとされていました。 砂抜きの際に布などをかぶせて中を暗くすると、より早く砂が抜けます。



- しじみ汁
- しじみ 250g(殻付き)/昆布 5g(下処理用)/越した汁 400cc/江戸甘みそ 35g
- 目刺しいわし
- イワシ 3尾(マイワシやシコイワシのような小ぶりなもの)/塩 適量 ―― 『日用倹約料理仕方角力番付』にも記された人気のおかず
めざしは焼くことで身に香ばしさと甘みが生まれ、内臓には程よい苦みが感じられます。 しじみ汁はしじみから出た出汁の風味が非常に強く、味噌の風味を超えるほどの存在感。 梅干しは現代のものと比べると酸味と塩味がかなり強いのですが、それがかえってご飯との相性を高めていました。
六日目・たくあんと茄子おろし汁

たくあんも冬の保存食として重要でした。質の良い大根を選び、土を洗い落とし、日干しにしてから糠などと共に漬け込む。 大根を干すことで水分を抜き、糠と塩で漬け込むことで長期保存を可能にしました。


汁物は少し変わり種の茄子おろし汁。『料理珍味集』に記された方法を参考にしています。
茄子を食べやすい大きさに切って皮をむき、水に漬けて灰汁を抜く。 皮を剥いてから水に漬けることで、灰汁とりが早くなります。 灰汁を抜いた茄子をすりおろし、味噌汁に入れてひと煮立ちさせ、最後に好みでからしを添えたらできあがりです。
- 茄子おろし汁
- 茄子 1〜2本/出汁 適量/味噌 適量/からし 適量
荒くおろした茄子の食感がとても良く、茄子本来の風味がしっかりと感じられます。 少量のからしがアクセントになっていて、不思議な魅力がある汁ものでした。
たくあんは現代のものと比べると甘味が強く、より濃厚な味わい。 塩と糠の風味が渾然一体となり、ほのかな酸味も感じられます。
七日目・茄子蓼漬とかぶ汁

なすはヘタをとって食べやすい大きさに切り、塩をなじませる。 塩をなじませたなすと蓼(たで)の葉を交互に重ね、塩水に漬け込んでおきます。


かぶは大根同様に栄養価が高く、冬場の貴重な野菜でした。 煮干しでとった出汁で煮て、火が通ったら味噌をといてひと煮立ちさせれば完成です。
- かぶの味噌汁
- かぶ 中2個/出汁 400cc(煮干し)/味噌 30g
- 茄子蓼漬
- 茄子・蓼の葉・塩水(海水より薄め) ―― 『料理珍味集』を参考に。塩をなじませた茄子と蓼の葉を交互に重ねて漬け込む
かぶ汁はかぶの自然な甘みが味噌と絶妙に調和し、心温まる味わい。 大根とはまた違った甘さがあり、かぶの茎も入っていることで食感にも変化があります。 茄子蓼漬はみずみずしい食感とともに、蓼の葉の独特の辛みがアクセントになっていました。
一週間を終えて

現代の食生活と比べると、確かに質素なものであったかもしれません。 しかし、限られた食材の中で栄養バランスを考え、保存食の技術を駆使し、季節の変化を味わう知恵が詰まっていました。
ほとんどが「一汁一菜」という簡素な構成でありながら、漬物の種類や味噌汁の具材を変えることで変化をつけている。 振り返ると、大根、茄子、かぶなど、その時々の旬の食材を無駄なく活用していることがわかりました。
現代の私たちが便利さと引き換えに失ってしまった知恵や工夫が、ここにはあるのかもしれません。
本編動画
参照した史料
再現にあたっては、江戸の食を今に伝える次の書物を参照しています。
- 『料理物語』 ―― 江戸時代の食を知るうえで欠かせない書物(国文学研究資料館所蔵・国書データベース)
- 『諸国名産大根料理秘伝抄 上下』 ―― 多様な大根料理を紹介(味の素食の文化センター所蔵・国書データベース)
- 『四季漬物塩嘉言』 ―― 保存食としての知恵が凝縮された一冊(国文学研究資料館所蔵・国書データベース)
- 『豆腐百珍』 ―― 豆腐料理だけを扱った書(国文学研究資料館所蔵・国書データベース)
- 『料理珍味集』(味の素食の文化センター所蔵・国書データベース)
- 『日用倹約料理仕方角力番付』(新庄デジタルアーカイブ)



