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江戸時代のお茶漬け4種を再現する 茶ではなく、出汁をかける

飯にイワシを立てて蒸らす。味噌をこした汁を注ぐ。
江戸時代に人気だった四つの茶漬けを、当時のつくり方で再現した記録。

畳の膳に並んだ再現した江戸時代の出汁茶漬け4種。いわしめし、桜飯、山吹飯、筍飯
四種の出汁茶漬け。手前左がいわしめし、手前右が桜飯、奥左が山吹飯、奥右が筍飯

この記事でわかること

  • 再現した四品はいわしめし・桜飯・山吹飯・筍飯。いずれも茶ではなく出汁をかけて食べる茶漬け
  • いわしめしは『料理献立早仕組』、桜飯・山吹飯・筍飯はご飯ものだけを記した『飯百珍傳』を参考にした
  • いわしめしは炊き上がる直前の飯に穴をあけ、イワシを頭を上にして差し込んで蒸らす。「火薬」と呼ばれる薬味を添える
  • 桜飯の出汁は昆布だしに味噌を溶き、こし布でこしたもの。タコの味を引き立てる、やや塩気の効いた出汁になる
  • 茶漬けの登場は平安時代までさかのぼり、「湯漬け」「水飯」が起源とされる。当時は「茶漬屋」といわれる店も増えていった

江戸時代のお茶漬けとは何か

今回再現する四品は、茶ではなく出汁をかけて食べる茶漬けです。 もともと茶漬けは、残ったご飯に熱いお茶をかけて手軽に食べる、 庶民の知恵から生まれた料理でした。

それが時代とともに、さまざまな具材や出汁を使った多彩なバリエーションを生んでいきます。 それぞれに個性があり、季節や地域の特色を感じられる一品が多く、 変わった出汁で食べるものも多いんですよ。

木の蓋をした釜から湯気が立ちのぼる
立ちのぼる湯気。まずは飯が炊き上がるのを待つ
いわしめし
飯にイワシを差し込んで蒸らし、昆布出汁をかける。薬味は「火薬」
桜飯
茹でたタコを飯に並べ、味噌をこした出汁を注ぐ
山吹飯
うらごしした卵の黄身とせりをのせ、昆布出汁を注ぐ
筍飯
あく抜きした筍を炊き上がり直前の飯にのせ、出汁をかける

「湯漬け」と「水飯」

茶漬けの登場は平安時代までさかのぼり、 「湯漬け(ゆづけ)」や「水飯(みずめし)」が起源と言われています。 平安時代を代表する書物である『今昔物語集』にも、湯漬けや水飯が描かれています。

「茶漬屋」という店

江戸の当時は、簡単な食事を取れる「茶漬屋(ちゃづけや)」といわれる店も増えていきました。 江戸中期には番茶や煎茶が庶民にも普及し、 商家で奉公していた奉公人たちが仕事の合間に手早く食べる食事として、 大変重宝したそうです。

一品目・いわしめし

いわしめしは、炊き上がる直前の飯に穴をあけ、イワシを頭を上にして差し込んで蒸らす茶漬けです。 イワシを使った、庶民の間で親しまれた滋味深い一品。 こちらは『料理献立早仕組(りょうりこんだてはやしくみ)』を参考にしております。

材料
いわし 3本/米 2合/出汁 適量(昆布)/ネギ 1本/乾燥唐辛子 3本/大根おろし 適量

イワシの下処理

まな板の上のイワシの鱗を包丁で取り除いていく手元
水でよく洗い、まずは鱗を取り除く

イワシを水でよく洗い、まずは鱗を取り除きます。

まな板の上のイワシに包丁を入れて切り分けるところ
大ぶりのイワシなので、適当な大きさに切って内臓を取り除く

今回は大ぶりのイワシのため、適当な大きさに切り、内臓を取り除いておきましょう。 その後もう一度水で洗い、余分な汚れを落としておきます。

本日の出汁は昆布出汁

鉄鍋に張った水に昆布を二枚つけているところ
水と昆布を入れ、約三時間つけておく

ご飯は土鍋で炊いていきます。米と適量の水を入れて、普通にご飯を炊いていく。 炊くのを待つ間に出汁を作っておきます。

水と昆布を入れ約三時間ほどつけておき、つけた昆布を取り出します。 出汁ができたら、醤油と塩で味を調え、煮ていきます。 この昆布出汁は、のちの山吹飯にも使います。

「火薬」と呼ばれる薬味

すり鉢の中で乾燥唐辛子をすりこぎで潰して粉末にしていくところ
乾燥した唐辛子をすり鉢でしっかりと潰し、粉末状にする

次に『火薬』と呼ばれる薬味を準備します。 これはいわしめしに欠かせない要素で、風味と辛みを加える役割があります。

まずはネギを細かく刻み、次に乾燥した唐辛子をすり鉢でしっかりと潰して粉末状にします。

まな板の上で薄く削いだ柚子の皮を包丁で細かく刻んでいく手元
柚子の皮を薄く削ぎ、細かく刻んでおく

大根もよくおろして水気を軽く絞り、そして柚子の皮を薄く削ぎ、細かく刻んでおきます。 さて、これで火薬もそろいました。

飯にイワシを立てて蒸らす

炊いた飯に穴をあけ、イワシを頭を上にして差し込んでいく手元
炊き上がる直前に箸で穴をあけ、イワシを頭を上にして差し込む

先ほど炊いていたご飯の炊きあがる直前に、箸などで穴をあけます。 そこにイワシを頭を上にした状態で差し込み、蓋をして蒸らしましょう。 こうすることでイワシの脂と旨味がご飯に染み込むようになります。

蒸らし終わり、白い飯からイワシが頭を出して立っている土鍋の中
蒸らし終わったものがこちら
こう見るとかなり衝撃的な見た目ですが、
これが当時は当たり前の光景なのです。
蒸らしたイワシの頭を指でつまみ、骨ごと引き抜いているところ
頭を指でつまんで、骨と残ったはらわたをとる

次にイワシの頭を指でつまんで骨と残ったはらわたをとります。 しっかりと蒸らされているので綺麗に取れましたね。

最後に残ったイワシの身とご飯をよく混ぜ合わせ、 イワシの風味が全体に行き渡るようにします。

椀によそったいわしめしに出汁を張り、柚子と唐辛子の火薬をのせたもの
出汁をたっぷりとかけ、火薬を好みで振りかければ、いわしめしの出来上がり

お椀に混ぜ合わせたいわしめしをよそい、出汁をたっぷりとかけます。 最後に火薬をお好みで振りかけて、いわしめしの出来上がりです。

二品目・桜飯

桜飯は、茹でたタコを飯に並べ、味噌をこした出汁を注ぐ茶漬けです。 その見た目が桜の花びらに似ていることから、この名前がついたと言われています。

これから紹介する三品はすべて『飯百珍傳(めしひゃくちんでん)』から。 名前が示すとおり、ご飯ものだけを記している貴重な書になります。

材料
たこの足 1本/米 2合/出汁 適量(昆布)/味噌 適量/一味唐辛子 適量

タコのぬめりを取り、しっかり茹でる

木桶の中で生タコを塩で揉み洗いしている手元
塩でよく揉み洗いし、ぬめりを取り除く

今回は生タコを使いますので、まずはぬめりを取り除きます。 塩でよく揉み洗いし、水で洗い流します。

湯気の立つ鍋の中でタコが茹だっているところ
沸騰したお湯でしっかりと茹でていく

その後、沸騰したお湯でしっかりと茹でていきます。

味噌汁をこした、変わり出汁

桶にかけたこし布に味噌汁を流し入れ、こしているところ
昆布だしに味噌を溶き入れ、こし布でこしていく

ゆでている間に出汁を作ります。基本的な出汁をとりますが、 今回は味噌汁をこしたものにします。

つくり方は簡単で、先ほどの昆布だしに味噌を溶き入れ、こし布でこしていくだけ。 これがタコの味を引き立てる、やや塩気の効いた出汁になるのです。

歯ごたえを残して、厚めに切る

まな板の上で茹でたタコの足を包丁で厚めに切り分けていく手元
水かきを切り、食べやすい大きさに。歯ごたえを楽しむなら少し厚めに

タコが茹であがったら、水かきを切って食べやすい大きさにしていきます。 厚さは好みによりますが、歯ごたえを楽しむなら少し厚めにするのが理想的。

椀の飯にタコを並べ、出汁を張り一味唐辛子を振った桜飯
出汁をゆっくりと注ぎ、好みで一味唐辛子を少量振れば桜飯の完成

最後に炊きたてのアツアツのご飯をお椀によそい、先ほど切ったタコを丁寧に並べていきます。 タコの赤い色が映える、美しい盛り付けを心がけましょう。

ご飯とタコの準備ができたら、温めておいた出汁をゆっくりと注ぎます。 最後に好みで一味唐辛子を少量振りかけて、桜飯の完成です。

三品目・山吹飯

山吹飯は、うらごしした固ゆで卵の黄身を飯にのせ、昆布出汁を注ぐ茶漬けです。 その色合いが山吹の花に似ていることからこの名前がつけられた、 シンプルながらも華やかな一品。

材料
たまご 2個/米 2合/出汁 適量(昆布)/せり 適量

固ゆで卵から始める

桶の上で固ゆで卵の殻をむいている手元
沸騰してから約10分。茹であがったら冷水にとり、殻をむいていく

まずは固ゆで卵の準備をします。 卵を鍋に入れ水からゆで、沸騰してから約10分ほど待ちましょう。 茹であがったら冷水にとり、殻をむいていきます。

まな板の上でゆで卵の白身を包丁で細かく刻んでいく手元
半分に切って白身と黄身を分け、白身は細かく刻む

そして卵は半分に切り、白身と黄身を分け、白身を細かく刻んでいきます。

黄身をうらごしする

ざるの上でしゃもじを使い卵の黄身をうらごししているところ
黄身をうらごしして、細かく滑らかな状態にする

次に黄身をうらごしして、細かく滑らかな状態にします。 うらごしすることで、口当たりが良くなり、出汁に溶け込みやすくなるのです。

まな板の上でせりを包丁でみじん切りにしていく手元
彩りと風味のアクセントになる、せりをみじん切りに

次に彩りと風味のアクセントになる、せりをみじん切りにしておきます。 出汁は、いわしめしと同じ昆布だしを使います。

飯の中央にうらごしした卵の黄身とせりをのせ、出汁を張った山吹飯
黄身を中央に集中させ、山吹の花のように広がるよう盛る

炊きたてのご飯をお椀によそい、うらごしした卵の黄身とみじん切りにしたせりをご飯の上にかけます。

黄身がまるで山吹の花のように美しく広がるよう、中央に集中させるように載せていき、 最後に出汁をゆっくりと注いだら完成。

四品目・筍飯

筍飯は、あく抜きした筍を炊き終わる直前の飯にのせて炊き上げる茶漬けです。 春の訪れを告げる筍を使った、季節の移り変わりを感じられる一品。

材料
筍 1本/米 2合/出汁 適量(昆布)/せり 適量

米ぬかであく抜きする

手にした筍の皮を一枚ずつ剥いていくところ
筍の皮を剥き、根元を切る

最初に筍の下準備。筍の皮を剥き、根元を切ります。

筍を入れた鉄鍋に米ぬかを流し入れているところ
大事なあく抜きの工程。米ぬかと共にじっくり煮ていく

そして大事なあく抜きの工程、米ぬかと共にじっくり煮ていきます。 この間にご飯の準備、こちらも土鍋で炊いていきましょう。

まな板の上であく抜きした筍を包丁で切り分けていく手元
30分程煮込んで鍋から取り出し、食べやすい大きさに切る

30分程煮込んで、鍋から取り出し、食べやすい大きさに切っていきましょう。 これで筍の下準備は完成です。

炊き上がる直前に、飯の上へ

土鍋の飯の上に切った筍を放射状に並べていったところ
米が炊き終わる直前、弱火にするときに筍をご飯の上へ

筍飯をおいしく作るコツは、米が炊き終わる直前の弱火にする時に、 先ほど切った筍をご飯の上に置いて炊き上げること。 この方法により、筍の香りがご飯に移り、より風味豊かな仕上がりになります。

蒸らし終わったら、筍とご飯が均一になるように全体をざっくりと混ぜ合わせます。

椀によそった筍飯に出汁を張り、せりをのせたもの
お椀によそい、出汁をかけて、せりをまぶせば完成

最後に混ぜ合わせた筍飯をお椀によそい、出汁をかけて、せりをまぶして完成です。

四つの茶漬けを食べ比べる

畳に据えた膳の上に並んだ出汁茶漬けの椀
四種類の出汁茶漬けが揃った。並べてみると色合いや具材の違いが一目瞭然

どれから食べようか迷ってしまいますが、まずはいわしめしから。

膳から茶漬けの椀を手に取り、箸で食べているところ
いただきます

いわしめし ―― 出汁のおかげでさらさらと

うーん、イワシの濃厚な旨味と火薬のバランスが絶妙です。

蒸したイワシの香ばしいかおりと、ゆずのさっぱりとした香りが心地よく、 出汁のおかげでさらさらと食べられる。

桜飯 ―― 味噌の出汁が、タコを引き立てる

見た目がとても鮮やかで食欲がそそりますね。うん、タコの食感がたまらない。

歯ごたえのある食感と出汁の優しい味わいが口の中で広がり、 一味唐辛子のピリッとした辛さがアクセントになっている。 また味噌で作った出汁により、タコ本来のうまみが引き立てられていると感じました。

山吹飯 ―― 卵黄のまろやかさと、せりの香り

ほほう、卵黄のまろやかさが口いっぱいに広がり、 シンプルながらも上品な味わいで、出汁との相性が抜群です。

せりの香りが全体をまとめ上げている。 見た目も華やかで、目でも楽しめる調和のとれた一品になっていました。

筍飯 ―― 春の息吹と、シャキシャキの食感

筍の独特の香りと歯ごたえが素晴らしい。 灰汁をしっかりとったことでえぐみもなく、春の息吹を感じる爽やかな風味があります。

蒸らす直前で入れているので、筍のシャキシャキとした食感もあり食べ応え抜群です。

どれがおいしいかではなく、
どれもがおいしい。

それぞれに個性があり、同じ茶漬けでもこんなに違った味わいが楽しめるのは素晴らしい。 季節や手に入る食材によって変化する、日本の食文化の豊かさを感じられる品々。

茶漬けは一見シンプルな料理ですが、具材や出汁の取り方によって無限のバリエーションが生まれる、 奥深い日本の伝統食です。 今回ご紹介した四種類以外にも、地域や季節によって様々な茶漬けが存在します。

手間をかけず、素材の味を生かした料理こそ、日本食の真髄なのかもしれませんね。

本編動画

仕込みから実食までの全工程は本編で

参照した史料

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